アカウミガメのために砂浜を!

IMG_0070

アカウミガメ(表浜の砂浜のアイコン)

 日中の強い陽差しで蒸し返された海水が霧となって海岸を包んでいるからでしょうか、潮の香りが強く辺り一面に拡がり、乾いた鼻腔を刺激してきます。辺りは暗闇と霧に包まれてほとんど先は何も見えないからか、匂いが先に伝わって来るようです。なんでこんな時間に浜にでているのかって? それは浜辺を進むとそのうちに判ります。暗い中でも砂浜をジッと注視して進むと、微かな光に反射する砂浜に、何やら黒く太い筋が浮き上がってきます。そう、この砂浜に残る黒い筋状の陰が目的の主が残した跡です。この砂浜に残る黒い筋状の陰はタートル・トラック、そうです、この足跡は真っ暗な海岸に残された アカウミガメの足跡です。夏の蒸し暑い夜、人知れずに表浜ではこのように野生の営みが有史以前から延々と続いていたのです。

砂浜とアカウミガメ

 それではアカウミガメは砂浜とどのように関係しているのか探ってみたいと思います。まずはみなさんはアカウミガメを見たことがあるのでしょうか?もちろん、水族館でも充分に出会うことが出来ますよね。では、もし、可能ならその姿をよく観察してみて下さい。大きさは違えど、まずは陸のカメと同様、甲羅はもちろん、カメの特徴通り、鱗や顔付きなどは似通っています。しかし、ぱっと見でも、大きな違いに気が付くでしょう。淡水の池や沼、陸域の亀との大きな違いは四肢がフリッパー状となっていることです。大きなフリッパーをまるで鳥のように力強く羽ばたかせています。もう一つ、気が付きました。何と甲羅も体の割に薄平たいこと。これは海中を早く泳ぐことに適応した為、カメ特有の機能である頭部・四肢などを甲羅に収めることを諦め、防御することより、早く泳げるように扁平な甲羅となっています。このようにアカウミガメの身体は広大な海に適するように海棲への最適化が進んでいます。また、アカウミガメに至っては成体で約100キロ近く体重がありますが、広大な海の中では浮力に助けられて機敏に泳ぐことが可能です。実際に海洋で見るアカウミガメはかなりな速度で泳ぐことで陸や淡水のカメとはかなり印象が違います。しかし、それほど海に適したアカウミガメも、メスの場合は一生のうちに何度か、その快適な海から離れて陸に上がる必要があります。どのような時かと言うと、それは産卵期です。ウミガメは肺呼吸なので、海にもぐりっぱなしという訳には行きません。もちろん、親のウミガメだけではありません、ウミガメの卵も呼吸をおこなうので成長には空気が必要です。そこでアカウミガメの雌親は産卵期には砂浜を目指すことになるのです。雌親のアカウミガメは産卵期に、 数回の産卵に分けて砂浜に上がって来ます。 1回の産卵で100個前後の卵を生みます。なんて、たくさんの卵を産み落とすのかと驚きますが、たくさん生む必要があることを、たぶん、この後の砂浜との関係などにより、理解して頂けるかと思います。

さて、アカウミガメは波に押されながら、砂浜の波打ち際まで何とか到達します。さて、上陸を始めると、この体重とフリッパー状の四肢が課題となるようです。砂浜に上がってしまったアカウミガメはフリッパー状の四肢に100キロ近くの体重が容赦なく掛かり運動能力は低下してしまいます。そこで、上陸に要求される環境が緩やかな斜面をもつ砂浜となります。負担となる重い体を海から陸へと移動させる為には緩やかな傾斜はとてもウミガメにとっては好都合でしょう。また、軟らかな砂地ならば重い体を、引きずりながらでも移動させることも可能となります。 母親のウミガメにとっては、優しい砂浜が必要と言うことなのでしょう。では、表浜海岸の砂浜は優しいのか・・・・これはウミガメから聞いてみないと解らないことなのでしょう。
さらに砂浜は母親のウミガメだけでなく、産卵された卵にとっても、適した環境であるはずです。少し、卵の成長の様子を想像してみましょう。ウミガメの卵は呼吸をすると言いました。それには、卵の発生も知っておかなければいけません。ウミガメの卵は、鳥などの卵と大きな違いが幾つかあります。まずは手にしたことが無いと判らないことなのですが、卵の殻です。ウミガメの卵の殻は炭酸カルシウムの結晶の密度が低く、弾力性を持っています。さらに卵殻膜が鳥などに比べて分厚く、砂の穴に産み落とされたとしても、大丈夫なように出来ているようです。さらに、この殻の仕組みは、成長の過程で吐き出された二酸化炭素や、砂中の空気なども通しやすく、水分も取りやすいようです。このような特徴をもって、産み落とされてから、おおよそ60日前後で孵化を迎えます。その間、何事も無く砂の中で成長して行くのかというと、そんなに簡単な話では無いようです。

常に変化を繰り返す砂浜と共に

 ふ化まで60日ほど掛かると言うことは、砂浜もそれほどの期間、何事も無い訳ではありません。砂浜は海の波や潮位、さらに陸の風で常に動いているからです。例えば波打ち際に浮遊する砂が潮位や波なのでゆっくりと動き、波打ち際(前浜)から近くに大きな砂の棚(スワッシュバー)を数日という僅かな期間で作り上げたりもします。しかし、今度は逆に数日すると、その大きな砂の棚が、大潮や高潮などや波で一気に崩れたりして、今度は大きな浜の崖(浜崖)を造ったりもします。この時の動いた砂の量はとても多く、もし、雌親のアカウミガメがこんな場所に卵を産み落としたら確実に卵は流されてしまうでしょう。事実、年に数例はこの砂の棚(スワッシュバー)に産み落とす、おっちょこちょいなアカウミガメもいます。このように砂の変動が大きな表浜海岸、雌親のアカウミガメもそのことをどのように把握しているのか、未だによく判りませんが、実に産卵においては出来るだけ安全な場所を選びぬいているようです。雌親のアカウミガメはあの重い体を引きずりながら、約60〜80mぐらいまで砂浜の奥深くまで進んで行きます。表浜海岸の場合は、その距離はたいてい、海浜植物のある砂丘帯に位置するようです。この砂丘帯は植物が生えるぐらいですから、当然、海の波が頻繁に届いている距離ではないことがわかります。その位置に産み落とされた卵はまずは海に流されることは少ないようです。しかし、実際には海から離れていれば良いのかと言うと、そうでもないようです。さきに述べたようにウミガメの卵は成長に必要な水分を通しやすく出来ています。これは逆に考えると、水分も抜けやすいと言うように、成長には、かなり外部からの水分の状態に左右されるようです。もともと、砂浜は水が浸透しやすく、表面は砂漠に近い環境と言ってもいいようです。夏の直射日光下では、砂浜の表面温度は摂氏50度以上にもなります。砂浜の場所によっては水分が極端に低い所もありますし、砂表から浅いとやはりウミガメの卵は成長が難しくなります。ウミガメの卵が成長に適した温度は24℃〜33℃ぐらいで適度な湿度も必要です。海岸の砂浜は砂漠に似通っていると言っても、もちろん、砂の量と規模に違いがあります。海岸の砂浜は海から離れなければ水分が常に適切にあります。また、陸側からの小さな河川が流れ込んでいる場合もあります。このことは砂浜は単調に見えても、ウミガメの卵に砂浜は多様な環境を用意していることに気が付きます。

子ガメの生態は野生の象徴

多様性を生み出す

この多様な環境をウミガメの卵もうまく利用しています。それはウミガメなど爬虫類の多くにみられる卵が成長する過程で体験した温度によって♂か♀か、性比が決まるという働き(温度依存性決定※)です。私たちほ乳類のように遺伝性で性決定をするのではなく、外部的な影響を受けて性別を決めるという働きです。卵の成長の過程(おおよそ中盤)で砂中の温度が29℃(臨界)を境に低いと♂、高いと♀と性比が偏ります。このような傾向になることは未だに判らないことなのでしょうが、自然界においての性比のバランスは、その種の生存においてはとっても重要なことなのは確かです。なぜなら、アカウミガメのように大洋というとても広い海で生活している場合、繁殖するために♂と♀が出会うという場合だけでも大変なのです。昨今の気候変動による影響も心配される所以です。このようにアカウミガメは大切な性比の決定に砂浜の環境を利用していることも私たちは理解していないといけません。さて、ここまで理解が進むと、なんて大変な環境でもある砂浜に卵を生むのだと思ったのでしょう。でも反面、この複雑な環境に、多くの卵を委ねることで種としての多様性を生み出し、様々な環境変化にも対応出来たのでしょう。この多様性こそが常に変化を続ける砂浜がウミガメに託した能力とも受け取れるかも知れません。環境という面から見ると常に変化を繰り返す自然はもちろん、大きな台風や高潮・高波による被害、さらに高温や低温と色んな変化を続けて来ました。その変化にもウミガメは対応してきたのです。私たちヒトが地球上に現れたより前から、ウミガメが生きてきたということも知って置く必要があるのでしょうか。大洋を生活の場として、そして敢えて変化の激しい砂浜を発生の場としてきたアカウミガメ、カメ類の祖先は約約2億3000万年前(三畳紀中期)の化石(ブリスコケリス)から見つかっています。ウミガメとして今の姿に近くなったのは約1億1000万年前(白亜紀前期)の化石(サンタナケリス、ブラジル)と人類の起源が約700万年と思うと、遙かに生物としては先輩なのです。この長い時代、もちろん地球は氷河期や大きな津波を発生させる大震災など自然の脅威を地球上に生きる生物に与えてきました。それでも、アカウミガメの営みが地球上で続いているということを、畏敬を持って知って置くべきなのでしょう。

砂浜の生き物調査

砂浜を生活の場として利用する生物

表浜海岸の砂浜のアイコンとしてアカウミガメを紹介しました。もちろん、生き物はアカウミガメだけではありません。しかし、よく言われることは「砂浜のどこに生物がいるの?」という質問です。確かに・・・周りを見回しても、砂浜が拡がっているだけに見えます。さて、どうしたものでしょう。初夏の砂浜を歩いてみると・・・確かに砂地が目に映る単純で平坦な砂浜だけのように見えます。しかし、よくみると砂浜も波打っているように起伏があり、さらに波打ち際を見てみると、何か色んなモノが打ち上げられています。さあて、これは何なのでしょう。砂浜から波打ち際に近寄ってみましょう

 

砂丘

砂丘

野生への畏敬

そこで表浜ネットワークはどうやって取り組んでいるのか?

ウミガメの言語を理解する!!