海岸の生物多様性

食物連鎖

砂浜を生活の場として利用する生物

表浜海岸の砂浜のアイコンとしてアカウミガメを紹介しました。もちろん、生き物はアカウミガメだけではありません。しかし、よく言われることは「砂浜のどこに生物がいるの?」という質問です。確かに・・・周りを見回しても、砂浜が拡がっているだけに見えます。さて、どうしたものでしょう。初夏の砂浜を歩いてみると・・・確かに砂地が目に映る単純で平坦な砂浜だけのように見えます。しかし、よくみると砂浜も波打っているように起伏があり、さらに波打ち際を見てみると、何か色んなモノが打ち上げられています。さあて、これは何なのでしょう。砂浜から波打ち際に近寄ってみましょう。

流れ着くモノから(海から砂浜へ、砂浜から海へ)

波打ち際に近寄ってみると、それはアマモの塊です。絡まり合ったアマモ、大きな塊だと両手に一杯ほどの量があります。そして塊の中を見ているとビッシリと絡み合っているアマモと共にたくさんの生物が、この浜辺に流れ着きます。ちょっと、見てみましょう。なにやらカラフルな貝殻や小さなうごめく生きものが、たまに飛び跳ねていたりします。この飛び跳ねている小さな生きものは、まるでノミのようにも見えます。その周囲の砂地には、無数の小さな穴と、盛り上がった砂。この生きものは、どうやら砂の中から出てきたようです。この生物はハマトビムシ。砂浜の砂地の隙間に潜む生物です。実はこのハマトビムシは、このように流れ着いた生きものや海草・海藻などを主な食料としてこの波打ち際に潜んでいるのです。少しアマモを動かしてみましょう。たくさんのハマトビムシがその下に群がっていることが確認出来るかと思います。どうやらこのハマトビムシは、この漂着したアマモを食べているようです。さらに直ぐ近くに何やら、奇妙な生き物らしき物も打ち上がっていました。紫色の液体がその生物から流れ出したところを見ると、どうやらこの生物はアメフラシのようです。アメフラシは水深が1〜5mほどの浅い海に生息しており、海藻などを食べている生物。このアメフラシにはさらにたくさんのハマトビムシが群がっています。また、その近くに大きな魚を見つけました。この魚はアイゴという魚のようです。この魚は既に眼の周りや、エラの辺りはどうやらカラスなどの野鳥に食べられてしまっています。その残りにも、やはりハマトビムシが群がっていました。どうやら、このハマトビムシは砂浜に流れ着くこのような海藻や生き物の死骸などを主に食べ物としているようです。さらに少し進んで砂浜の潮溜まり(ラネル)に移動してみます。潮溜まりは波によって打ち上がった海水が、東西に分かれて勢いよく、また海に戻っていきます。なるほど、まるで海水が砂浜で漉されていくように打ち上げられた物が砂浜に送られていくようです。その潮溜まりの流れが滞っている場所に行くと、まるで汚れが溜まったかのような泡が溜まっていました。ここには風向きによって、泡が集まっているようで、この泡はまるで海の汚れが集まったかのような感じです。さて、この泡はどのような様子かと見てみると、細かな緑色の粒子が集まって固まったかのような感じです。どうやら海水が泡立ち、海の様々な養分と藻類が寄せ集まったこのようです。一見は汚れのようでも、このような形で海の栄養分(栄養塩)も砂浜に送られているようです。また、潮溜まりの中をじっくりと見ると小さな昆虫のような生き物が素早く泳いでいます。あっという間に砂地に潜るその生物はスナホリガニです。この潮溜まりに打ち上がった生物の死骸をハマトビムシと同様に食べ物にしているようです。
砂浜には砂地に潜む小さな生物(間隙生物)が流れ着いたモノを食べて分解し、その分解した消化物がさらに、海に戻されて栄養塩となり、それが植物プランクトンの食べ物となり、さらにそのプランクトンを動物性プランクトンが捉え、さらに動物性プランクトンを捕らえて食べる小さな魚、を遊泳する生物(ネクトン)へと食物連鎖が広い海へと繋がっているようです。このように波打ち際から沿岸砂州へと繋がる浅い海は、様々な物が漂い、太陽光と海からの波や潮位の作用で、食物連鎖を含み、色んな変化を起こしています。このように浅い海では、自然の作用によって、さまざまな攪乱(かきみだすこと)が起きて、様々な生命を養ってもいるようです。その営みと働きを、砂浜から波打ち際に打ち上がる物を伺うことでも理解が出来ます。もちろん、四季に応じて打ち上がる物も変われば、砂浜の生物も生活を変えて対応しています。気温や海流・潮位などによって、様々な生態系が砂浜には存在し、私たちがうっかりと見逃してしまいそうな営みが、密かに延々と続いていることも知っておく必要があります。このように砂浜を少し、歩いただけでも、注意深く見れば、海と砂浜において様々な働きと物質の交換があるようです。この目に映らない小さな生物も含め、多様な働きこそが砂浜海岸の大切な仕組みの一つのようです。

流れ着くモノから(海から砂浜そして森の生命へ)

また、打ち上がった魚や動物の死骸は、陸から波打ち際に食べ物を探しに来る者もいます。表浜沿岸の丘陵に拡がる森には様々な生物が生活をしています。少し砂浜の奥に向かって見ましょう。良く見ると砂浜には何本もの黒い線があることに気が付きました。これは満潮時に波が打ち寄せて集めた漂着物が線状(ドリフトライン)になっているようです。この線上に打ち上げられた魚や、同じように死んで漂着した野鳥(落鳥)のところは、波打ち際のような小さな生物はあまりいないようです。しかし、この辺りになると砂浜には足跡がたくさん残っています。さらに打ち上がった魚の周りにも無数の足跡を見つけることが出来ます。この主は何者なのでしょう。その足跡がその魚の近くから、砂地に開いた穴に向かっています。しかし、この穴の中に何か居るのか、夏の日中ではまったく判りません。例えば未明の時間に砂浜に来てみると、その主が何者なのか、判るかも知れません。実はこの主はスナガニ。早朝の光が少ない時間では、まったく彼らの姿は保護色で、砂浜に溶け込んでしまい、素早く動く彼らを見つけることは至難の業です。 既に陽が昇り始める時間には姿は無いのですが、クロベンケイガニやアカテガニは既に丘陵の沢に戻っているようです。砂浜にはスナガニより、大きな足跡として残っています。(夏の放仔のシーズンは無数に砂浜に足跡が残ります)
さらに、もっと大きな生物の足跡も残っています。この足跡は明らかにほ乳類、そう、タヌキやキツネ、イタチ、アナグマなどの足跡です。最近はネコや野犬に加え、外来種であるハクビシン、ヌートリアといった今までに表浜海岸では見られなかった動物の足跡も増えています。(彼らは人の海岸利用によって持ち込まれた食べ物によって海岸を生活圏とするようになったようです。また犬、ネコも飼育放棄によって話されたケースが多いようです)このような大きな足跡のほ乳類は夜間、このように海から漂着した魚や野鳥を食料の一部として探しさまよっているようです。また、タヌキやキツネなどは、砂浜を行き来するアカテガニのようなカニをも食料とします。砂浜から砂丘にかけては波打ち際に比べ、スナガニなど少し大きな生物から丘陵の森に潜む動物が主役となっているようです。

カツオノエボシ

丘陵の森と海はさらに知られていないところでも繋がっていたりします。それは直接、あなたが海岸で見てみることをお勧めします。例えば、夏は様々な昆虫が海に向かって行くようです。例えば、月夜に誘われてか、羽アリの大群がまるで澪筋のように海に浮かんでいることがあります。未だに何故、海に向かうのか、よく判っていないのですが、この海に浮かぶ羽アリの群れを海のイワシが待っていたかのように群がって食べていたりします。この様子を見ていると表浜海岸の丘陵の森と海が、思いも寄らないかたちで、一時的と言え、直接に食物連鎖で繋がっているのです。また、夏の早朝にキリギリスが連日、波打ち際にまで進出している場面を何度も見たりします。カマキリなどが寄生虫によって、池や水溜まりなどに出てくることは良く知られていますが、キリギリスを観察すると、どうも潮を舐めに来ているように伺えます。しかも、見ていると波にさらわれてしまい、大抵は死んでしまっています。いったい、この行動は何故に起きるのでしょうか。まだまだ、丘陵の森の生物と海の繋がりは良く判らないことがあるように感じます。沿岸などにある森は「魚付け林」と知られています。これは森から流れ出るミネラルを多く含んだ水が海に栄養塩を与え、プランクトンを育てることで知られています。しかし、さらに生物も密接に丘陵の森と海が繋がっているようです。このように波打ち際に流れ着く、漂着物からも、実に不思議な海と丘陵の森の関係があることもが、判って来ました。

イイダコ